2022-12-01

殺人の季節 牧野楠葉

 ここはド田舎だから、と言って、仕事を辞めた親父が自分で作った改造銃でカラスを撃ち落とすのを趣味にし始めた。

「またお父さん、こんなに撃ち落としてどうするのよ……ご近所さんにも変な目で見られてるんだから!」

 姉は父のやっていた肉屋を引き継いで、肉を延々と捌いて切り盛りしているのだが、一日に何度も響き渡る銃声が、気に障って仕方ないらしい。おれはなぜかその音が気にならなかった。むしろ、幻聴が気にならなくなって、愉快なぐらいだった。カラスはばたばた落ちてくる。おれはというと、そのカラスの死体の羽をむしってから捌き、庭で焼いて灰にするのが一日の日課になった。

「お母さんも! 早くカレーライス食べちゃってよ、もう冷えちゃったらまったく意味ないんだってば! 初日のカレールーっていうのはね、熱いから意味あるんだから!」

 姉はなんにでも意味を求めたがるが、親父とおれは意味を求めない。母親はボケ始めている。

 

 おれの幻聴が酷くなったのは、昔東京でまだ仕事をしていたときだ。当時付き合っていた彼女がおれのことを詐欺師と罵ってからこうなって、障害年金を貰って実家に戻った。

 おれはまあほとんど詐欺に近しいというか、れっきとした詐欺グループの一員だったので、彼女にはっ倒されて、急におれの仕事のせいで自殺した老人たちの鳴き声やうめき声が脳内をかき乱すようになった。おれは彼女に自分の仕事を話していなかったのだが、彼女がおれのスマホの業務用チャットを見て察したのだ。

「……どういうこと、これ」

「仕事だけど」

 彼女は口紅を丁寧に塗り始めた。

「お前にそういうプレゼントを買ったり贅沢させたりする金を富裕層のババアジジイからほんのちょっと貰ってるだけさ」

 彼女は荷物をまとめて出て行った。

 警察にチクられる可能性があったので、おれは彼女をグループに引き渡して、自分の小指を詰めて謝罪して、足を洗った。

 そして実家に戻ると、親父はカラスを撃ち落とし始めた。

 その改造銃はいつ暴発するかわからない。

 

 夜八時ぐらいにいつもの飲み屋に行くと、よく話し相手になってくれていたヤスさんという老人が脳梗塞で死んだと聞かされた。

 おれは途端につまらなくなって、早々と家に帰った。

「姉貴、あのさ、ヤス……」

「あんたまた酒飲んでたの? いい加減にしてよ。わたし今からちょっと出かけるから」

 姉は派手なワンピースを身に着け、化粧をしていた。

「なに、男?」

「悪い?」

「いや別に……」

「今度から夜も働くことにしたの。雅子さんのとこのスナックで」

「おれが行ったら安くしてくれんの?」

「……あんたさ、なに? 障害年金家に入れてなかったら、あんたのことお父さんの銃で撃ってたわ」

 

「お前。カラス、撃ってみないか」

 おれがライターを庭に埋めてから寝巻きに着替えているときに父親が改造銃をおれに差し出してきた。

「おれも?」

「お前もっていうか、なんかなあ。今打ち落としたカラスが三本足だったんだよ。その瞬間に俺、なんか可哀想だなあと思っちまってな。障害だよ障害。生まれつきのもんだ。でもなんでそのカラスが三本足だっていうと、ある仮説を考えたんだよ。神様、いや、神様とは言わないな、それなりに偉いやつが、そのカラスの足をもぎ取って、恵まれない誰かにやったんだよ」

「やたがらすってやつだろ」

「やたがらすって可哀想じゃないかお前」

「これまで親父は何羽撃ち落とした?」

「……そんなの覚えてねえよ」

「だったらカラスが三本足でも四本足でも関係ないだろ。障害だろうが障害じゃなかろうが関係ないだろ」

「俺、撃ち落とすの辞めようかなあ」

「なに言ってんだか」

「でもな、完全に辞めるのはスカッとしないんだ。だからお前にパスをな、パスをしようとしてるんだ」

 おれは笑って、改造銃を親父から受け取った。

 その瞬間、姉が取り乱して戻ってきた。

「雅子さんのスナック、燃えてる!」

「おい、消防団呼べ消防団! 早く!」

 親父は半狂乱になって叫んだ。おれは埋め立ての土を踏んでならした。そのとき、視線を感じて振り返ると、母親が縁側に座って、こちらをにこにこしながら見ていた。

「お母さん知ってるわよ。また成績の悪い答案票、埋めたんでしょう」

 

 次の日テレビで観たところによると、スナックで飲んでたジジイが三人の重症、二人の死亡が確認されたそうだ。そしてそのスナックの中で雅子さんの服を着た男の遺体が発見されたらしい。

 

 おれはそれからカラスを撃ち落とし始めた。いつかこの銃が暴発する。そうなればいいと願っている。

 

ストレンジャーたち 多宇加世

「〈疋田真衣〉(ひきたまい)くんなら〈M:藍〉(マイ)で代用できるからいいよ。ここ徳島だから藍って字、使うのいい。私の名前とも近いね。でも無理にハツラツネームにしろとは言わないけどさ」

一時限目途中、隣の席の野村K:愛(カイ)から非追跡、非公開アプリ「チドリアシ」でそんなテキストが授業用端末に届いた。マイは彼女の姿を一瞥するも、カイはそんなそぶりも見せず、優等生のような横顔をして授業を聞いていた。それは素敵だった。「私の名と近いね」それにもマイの裡がなんだか高鳴った。

しかし一体どうやって山形から今朝転校してきたばかりの自分に、まだIDも交換してないカイが送ってよこせたのかは分からなかったが、さすが(第二首都の高校生だ、田舎者とすることが違う)と思った。そのあとでマイはいまカイを見やったのとは逆のほう、生徒たちの頭越しに――奥の窓から――海のほうよりたなびくカーテンのあいだから遠くの、だがそれでも巨大な「あれ」を眺めた。今頃、調査員である父も中へ入っていることだろう。眺めすぎたので教師に注意された。

徳島の人間にとってそれぐらい、あの遺物は異物でなくなっているのだろうと思った。

クラスメートの一人、〈N9XJQ〉からもチドリアシにテキストが届いたのは次の授業中だった。

「〈M:藍〉なんて女みたいな名前、似合ってるぜ。ハツラツ?」

非公開のはずのが読まれているようだ。彼ともID交換はしていない。プライバシー。マイは溜息をついた。いきなりごたごたはいやだ。

「〈N9XJQ(キューキュー)〉か。バックナンバーズだからな」

「やめなよ、その呼び方」

「キューキューのほう、それともバックナンバーズ?」

「後者。分かってるくせに」

昼食時、屋上の一角でマイは三人の生徒と共にいた。カイもいて、他にいま軽口叩いた花山T:欧希(トウキ)やそれに西原H:央太(ホウタ)がいた。彼らは仲良しグループらしかった。そこまでの会話を聞き、マイが遮る、

「バックナンバーズ?」

「マイくんは山形から来たから真衣っていう名前がまだ使えるけれど、第二首都のここ徳島では、産まれたらまずアルファベットと数字の名前が与えられるでしょ。そこから改名するのは自由で私たちみたく管理番号の頭の文字を使って漢字と混ぜて、ハツラツネームにすることはできる。でも、管理番号そのままを使う人たちもいるの。そういう人たちを、私の口から言いたくないけど、いまトウキが言ったみたいな名称で括ることがある」

「旧時代にしがみついてるんだ。他にも〈D6OCY(ドロシー)〉とか。本人達はプライドがあるんだろうけど」

「そうか。未成年の僕もあと一週間で住民コードとる期限までに、君達みたいな――それこそカイさんの提案してくれたみたいなM:藍とかの――名前かあるいは管理番号か、選ばなきゃいけないんだよね。僕の管理番号なんだったかな。でも今更訊くけど、ハツラツネームの『ハツラツ』って何?」

それを聞いてホウタが牛乳を鼻から吹き出した。ついでに眼鏡もずらしたまま叫ぶ、

「オ、オロナミンCだよ!」

「オロナミンシー?」

「知らないの……、あ、そっか。禁制品!」

「CMも首都外では昔もやってなかったってことか。とにかく、俺らの名前みたく、オロナミンCみたくアルファベットと漢字や平仮名が混ざっている名前の通称ってことだ」

……ねえ。ああ。いっちょ。うん。マイを除く三人が目配せしあい相談事をしている。そして三人共、にたあ、という顔をしてマイのほうを向き、口を揃えて(呼び捨てだったトウキまでもが)こう言った。

「マイくんのお父さんってさあ、あれの調査員なんだよねえ?」

 

 日付変わって深夜二時。まさかこんなことになるとはマイは思ってもなかった。いつのまにかハツラツネームと打ち解けていたが、マイは密かにこいつらのほうがタチが悪いのではと考えていた。そう、バックほにゃららよりも。まさか、自分に父の端末を持ち出させ、尚且つ自分たちは手漕ぎボートまで用意しているとは。確かにマイの父は山形から「これ」を調査しに来た。マイの転校はそのためだ。いま、白波だけが異様に白い、黒い石油のような波に抗って、海上十メートルに浮かぶ真下に来て、その高さ200メートルの巨大遺構物に目を見張った。午前中に教室から眺めた「あれ」つまり「これ」。こんなに接近することになるとは。いや接近するだけではない、いまからやろうとしていることは。父の端末を操作するのはカイ。チドリアシといい、初見のこれといい、こういった技術に長けていることを、短い付き合いながらマイは知った。巨大遺構物に後から現代の人間が取り付けた金属製のタラップとセキュリティ設備を、片や動かし、片やオフし、ボートを係留して、四人は何の苦労もせず侵入することができた。

通称・オロナミンC(「ああ、ここにもオロナミンシー」とマイ)と呼ばれる巨大遺構物は二十二世紀初頭、いまから五十年前、突如、吉野川河口沖に現れ、重力を無視する形で海面から十メートルの高さで浮遊し、そしてずっとそうし続けている。海底で眠っていたと言われるそれは茶褐色で、ボトル状の、昨年夏に完成して久しいサグラダ・ファミリア(禍の為もあって、工期は延長に延長を重ねた)の単棟版のようであった。

徳島が第二首都に指定されたのは、これがあるからだ。重要文化都市国家・徳島。

遺構内は予想に反して明るかった。これは後からつけたものでなく、元から備わっていた未だ解明できぬ照明技術ということだった。端末を操作するカイの髪がボートで来る途中にはねた海水で濡れていて、マイはそれを見つめた。苦笑しながらトウキもホウタもその視線に気付いていた。端末は特殊モデルで、これは山形で開発された「Y線」の検査がコンパクトなそれ単体で行える代物だ。技師でもないカイはどこから取り出したのかこめかみに装着した骨伝導ウェアと同期させて、しばらく先頭に立って喋らなかったが、

「あ、ここ!」と指さした。

何の変哲もない壁に見えたが、強く一回押し、軽く二回押す、というカイの指示通りにすると扉が現れた。Y線だから発見できたということなのだろう、端末の履歴と照らし合わせて、それは大人達も知らぬ新発見であることが分かった。皆の興奮が高まる。中は教室ほどの広さだった。

 

「K:愛はかわいこちゃんで優等生だ。だがな、ハニートラップには気をつけろよ」

翌日、三時限目から登校した授業中、また、キューキューからチドリアシに不法に届いた。(ハニートラップ?)だがマイには心当たりがあった。自分のこれからの名前――。いま僕はハツラツネームに傾いている。だが本当にそれでいいのか。安易に惹かれているんじゃないか? 自問自答したが答えは出なかった。三人とも、チドリアシでメッセを交わした。眠気も吹っ飛ぶ夢中な「キー」について。

一・二時限目のあいだ、マイたちはサボってデパ地下の端のイートインスペースにいた。そごうのだ。四人は昨晩の話でもちきりだった。

「なんならフタだけでもいいんだろ?」

「でも、そんなのないよお」

「徳島の店、片っ端から巡るとか?」

「マイ、徳島がどんだけ広いか知らないからそんなこと言えるんだ」

「そもそも僕はそのフタの形がよく分からない。一瞬だったしね」

「禁制品になってからもしばらくは徳島では流通してたとか言うけど、どの程度のものかしら」

「あのホログラムの形状からして、オロナミンCのフタなのは間違いない。俺たちは『懐かCM特集』とかで見たことあるからな」

「多分ね」

「そのキーをあそこに刺せば表彰もんだ」

「刺すと何が起こるんだろう?」

「やってみてのお楽しみだよ!」

マイの裡で昨晩の記憶が蘇る。部屋に入った瞬間、オペレーションルームらしき卓にホログラムが大きく投影されたこと。それがオロナミンCのフタのようだったということ。刺し込む穴が卓上に現れたこと。部屋の中心に祭壇があったこと。

と、中年の女性がぐっと、四人の寄せる顔に口を突っ込んできた、

「あんた達、学校行きなさいよ」

「ゴンドウさん、すんません、俺ら学校よりも大事なことあるんで!」

「このゴンドウが言ってるんだから、行きなさい!」

こえー、とトウキ。

「店の人?」

「ううん、ゴンドウさんっていういつもここにいるお客さん」

耳元でカイにこそこそ話をされたマイは耳たぶが赤くなった気がした。

「それより、フタないっすか家に? フタ!」

「フタなんて飲むときに捨てるからあるわけないじゃない!」

こえー、とホウタ。

「それにあたしの子供の頃には既に禁制品よ!」

「へえー、ゴンドウさんって案外若いんすね」

トウキのその一言で四人は追い出された。

 

昼休み。マイは落とし物を拾った。厳密には拾おうとしたところ、肩を叩かれ、振り返るとそこにはD6OCY(ドロシー)の姿があった。落し物は彼女のストラップだったのだ。「ありがと」彼女がしゃがんで拾い、礼を言って去って行こうとした。その瞬間、マイはドロシーの手首を掴んだ。

「ねえ、それ……」

「ほしい? これ」

「うん。ようく知ってるね」

「まあね」

チドリアシでの会話を盗み見されていることに慣れ切ってしまったマイは、ストラップの先にぶら下がるキーに見とれた。

 

「〈私達〉の先祖のあいだでそうした長い期間の禍の過ちの戒めとしてこれは受け継がれてるの。あなた達の知らないところで、これは『過去の権威の象徴として』だとか、疑われたりもしてるけれど、いまはただの飾りよ。いいよ、必要なら」

「どうお礼をしたらいいかな」

二人はドロシーの家の彼女の部屋にいた。マイは、急に立ち上がった彼女の背中を見ていた。そして、

「僕さ」「うん?」部屋の隅の小さなボックスの中に手を突っ込んだドロシーが答える。

「僕さ、自分の真衣って名前、嫌だった。昔から。女の子の名前みたいで、いじめも受けた。この名前、曾祖父がつけたんだ。だからまず僕の悩みを解決するには、ひいおじいちゃんをなんとかしなきゃだよね。そんなことは無理だけど。だからね、いっそのこと性別も何もかも、ない名前もいいかなって、僕、考えてる」

「そう」

「君らみたいな」

「バックナンバーズ?」

「まあ、……うん。そう」

「私達は未だに差別を受けてる。いじめと一緒。その覚悟、あなたにある?」

マイは窓から知らない夕焼けを見た。山形の夏の空とは違い、雲が塊で浮いていた。そして、もう一つの空は、柔らかくて、そしてとてもいい匂いがした。マイは汗だくになった。ドロシーも汗だくになった。彼女の浅黒い空はとても素敵だった。汗だくの彼女がマイに渡してきた瓶も、さっきまでキンキンに冷えていたのが分かるような水滴が付いていた。瓶にはオロナミンCとラベルがあった。マイは言った、

「えっと、禁制品という意味はどう解釈すれば?」

「あるところには、あるのよ。そういうものって。真衣っていう名前が私達には手に入れられないように、あなた達の手に入れられないところには」

そう彼女は笑った。そして、

「どうせなら、新品のがいいんじゃなくって?」……

 

夜、端末を持ち出そうとしたが、それとなく父に訊いてみると職場に置いてきたという。だが問題ないとカイは言った。「今回はセキュリティを解除する時だけだからね。普通のでいける」四人の胸の高鳴りといったらなかった。またボートで辿り着き、侵入した。祭壇のある部屋へ。強く一回押し、軽く二回押す。今回はマイもはっきりとホログラムを見た。確かにフタだ。「じゃあ、いくよ?」

マイが、ドロシーから貰ったそれを刺し込む。イーン、と音がした。フタはかっちり嵌った。

「何が起こるんだろう?」

「何も起こんねえな」その直後だった。

〈日付を設定してください!〉

「喋った?」

〈履歴から、自動検索します!〉

「どうしたらいいんだよ?」

〈オートメーションに切り替えます!〉

 そして唐突に告げた、

〈二〇二〇年一月一日さかのぼります?〉

「えっ、何これ!」という四人と機器以外の声が響いて、振り向くとそこにはキューキューが立っていた。いや、浮いていた。祭壇の上で。「えっ、なんでキューキューがここに?」「いや、お前らの漕いできたの、うちの貸しボートみたいだったから」「貸しボート?」「知らねーの、うち、ボート屋。てか何でいま俺浮いてんの?」その時だった。

〈二〇二〇年一月一日さかのぼります!〉

「もしかして、タイムワープ? これ遺跡なんかじゃないんだ、未来から来たんだ!」

「その祭壇! 装置だ!」

「キューキュー、そこから降りろ!」

「無理無理。うわー!」

咄嗟にマイがキューキューを吹っ飛ばす。だが今度はマイが祭壇に浮いた。「マイ!」キューキューが叫ぶ。

〈さかのぼります。最終通告〉

『だからまず、ひいおじいちゃんをなんとかしなきゃね』

マイの脳裏をよぎる自分の言葉。マイはためらった、このまま――。

ビープ音の中、だが叫んだ、

「僕は僕なのか分からない!」そう覚悟して。

「でも僕なんだ!」マイを皆で引っ張る。キューキューも引っ張る。

間一髪、脱げた片方の靴が宙に上昇してゆき、消えた――。

 

世間には一切報じられなかった。そのかわり、マイの父は処分を受けて、山形へ左遷となった。母もついていった。マイだけが、徳島に残った。マイたちも、一足早い「夏休み」を食らった。あれから、巨大物体オロナミンCは外貌にその変化は現れていない。だが内部はマイたちが刺したキーのおかげで随分変化があったという。どう変化があったかは具体的には訊けなかったが、父が漏らしたことによると、徳島が「第二首都」から解除されるくらいの、危機――未来からの干渉――が訪れているということだった。もちろん内々での情報だ。マイが徳島に来てから、一週間足らずの出来事だった。そして、一週間が、その期限が、訪れた。

「お待たせ」

マイは玄関に並ぶ皆に言った。

「名前、記入した?」

「もちろん」

「じゃ、行こうか」

「待って、ドロシーがいま学校から向かってるから」

「ドロシー……? あー! まさか、てめ、いつのまに」

「カイを振ったの?」

「そ、私振られちゃったー」

「じゃあ俺と付き合う?」

「キューキュー!」

「あっ彼女、来たよ」

「行こう!」

カイ、トウキ、ホウタ、キューキュー、ドロシーと自転車で飛ばす。夏の空は山形よりも天高い。そしてマイはこうも思う。こいつら最高かも。

 

 

牧野楠葉『フェイク広告の巨匠』(幻冬舎)
1,430円(税込)

 

多宇加世『町合わせ』
2,200円

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